権利と義務の整理、会社として主張すべきことは明示されているか

就業規則

よくいただくご質問と回答

従業員10人以上になった場合は就業規則の作成、届出の義務があるのですか?

おっしゃるとおり(労働基準法第89条)ですが、経営の観点からは、義務というよりは権利と考えた方がよろしいかと思います。就業規則により労働条件を定めることができる権利(就業規則制定権)は会社の様々な人事権の根拠をなす最重要の権利です。就業規則制定権を行使せずに、円滑な労務管理を行うことは、現実問題として困難が多いと思われます。

なお、就業規則に記載された内容は、合理的な内容である限りそのまま労働契約の内容になります(労働契約法第7条)。特に会社設立時の最初の就業規則については、不利益変更の論点もなく、経営者が自由に労働条件を設定できる絶好の機会ですので、この機会を放棄したり、雑な対応をするということは合理的な考え方とは言えません。

就業規則の「周知」とは具体的にどのような状況をイメージすればよいでしょうか?

会社は「就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示」する義務があります(労働基準法第106条)。具体的には、「全従業員(アルバイト等も含めて)が」「就業規則及び人事労務諸規程の全ての」「最新バージョンを」「容易に閲覧することができる」ような状況を作ることが必要であるため、拠点が多い場合などは、社内イントラネット等で管理するケースが多いと思います。

就業規則の発効要件は「周知」であり、「制定」「届出」ではありません。「周知」が漏れている場合は、どんなに立派な規程を作成しても、労働基準監督署に届出がされていたとしても無効になります。また、就業規則本則のみ周知して、賃金規程は見られたくないので周知しないといった対応になれば、「賃金規程」は無効になります。

就業規則を見せないようにする、隠すといった対応は、全く合理性はありません。

なお、労使協定についても周知義務の対象になりますのでご注意ください。

就業規則その他の規程について、周知や届出の対象はどこまでが対象になりますか?

労働基準法第89条各号にある内容を定める規程は、全て就業規則の一部になりますので、周知や届出の対象になります。一見労務管理に関係がなさそうな内容でも、違反に対する懲戒処分などが定められている場合は、就業規則の一部になりますので、周知や届出の対象になります。

  • 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
  • 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
  • 三の二退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  • 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
  • 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
  • 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  • 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  • 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
  • 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
届出の注意を教えてください。

基本的なことですが、本社でのみ届出をして支店で忘れないようにしてください。労働法令の適用は「事業場」単位ですので、就業規則や労使協定の届出は、事業場ごとに各管轄労働基準監督署に届出する必要があります。

また、会社の移転等で労働基準監督署の管轄が変わった場合は、転居先の管轄労働基準監督署に再度届出をする必要があります。引っ越しに際にはご注意ください。

なお、多拠点を有する会社様については、郵送で多拠点への届出対応をすることは労力が大きいため、e-gov電子申請により本社一括届が可能な環境にあれば、ペーパーレスで簡単に多拠点届出ができるので便利です。(諸規程も一緒に届出可能ですが、労使協定は別途対応になります。)

ルールを柔軟に変更したいため、規程ではなく
非公開の「内規」「ガイドライン」にしたいのですが問題ありますか?

会社の内規として運用することは可能ですが、規程ではないので、従業員に対する強制力はありません。(従うように義務づけたり、違反に対して懲戒処分をするようなことは基本的にはできません。)

就業規則の不利益変更の注意点について

原則 「労使の合意により変更することができる」「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」(労働契約法第8条、第9条)

例外 「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」(労働契約法第10条)

いわゆる4要件を整えながら、丁寧に説明会等を実施して理解を求める作業が必要になります。

【4要件】

  • 労働者の受ける不利益の程度
  • 労働条件の変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働者側との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情

特に重要なのは①であり、どうしても不利益変更が避けられない場合は、一定の代償措置や移行措置等を検討することで従業員への影響をできるだけ抑えていく必要があります。

また、不利益変更の際は、従業員側の心理的な準備や理解を求めるため、決定として伝える前に、案の段階で説明会を開催したり、意見聴取を行うことで、あらかじめ反対意見を聴取して地ならししておくことが実務上有効です。

就業規則の条文で注意すべき条文を教えてください。

次のような事項について、注意が必要と思われます。

  • 雇用区分(名称)が、実際の運用と一致しているか?例えば、「臨時社員」と記載されているのに、社内ではそのような呼称は使われておらず、「パート」「アルバイト」などと呼称していると、規程と運用の不一致になり、適用される労働条件が分かりにくくなります。
  • 採用時のトラブル防止として「内定取消事由」「試用期間(延長がありえる場合はその内容も)」を運用に合うように記載しているか?
  • 人事異動(配置転換、転勤、出向等)について記載はあるか?「はっきりとは書いてないけど正社員だったら常識でしょ?」は通用しません。
  • 労働時間制度(原則的な所定労働時間、フレックスタイム制、変形労働制、裁量労働制など)の選択が適切か?
  • 年間の休日数が分かるような規程になっているか?規程上明確ではない場合は、年ごとにカレンダーを作成しているか?法定休日が特定されているか?(曜日固定、1週1休、4週4休など)
  • 残業許可制の内容が不適切でないか?例えば、「事前に申請を行い、所属長の承認を得た場合を除き、時間外労働とは認めない」といった条文を制定した場合でも、法令解釈としては、「就業規則の許可云々」ではなく、「実態として労働があったか否か」で判断されるので、就業規則の条文を盾に一律に切り捨てを行うとサービス残業として会社の法令違反になります。あくまでも、実態確認をした上で運用する必要があります。就業規則は絶対なものではなく、法律よりは下位の効力になる点については意識しておく必要があります。
  • 休職に関する運用は、現実的に使える内容になっているか?
    改めて通読してみて、実務運用をイメージしながら、引っかかりになりそうな箇所は補強しておくべきです。
  • 定年、第二定年、定年再雇用、5年超無期転換など、高齢者の雇用について矛盾や不備がないように設計されているか?
  • 「人事評価の運用に基づく降格、減給」と「懲戒処分としての減給制裁、降格処分」と区別されているか?特に人事制度による降格、減給を実施するためには、人事制度の内容の客観性や公平性を保ち、不利益な内容も含めて社内に説明と周知をしておく必要があります。経営者の恣意的な判断で一方的に低評価を行い、処遇を引き下げるといった対応は許容されるものではありません。
  • 割増賃金の単価や割増率は、法的な観点から、正しく記載されているか?
  • 固定残業手当は明瞭な内容になっているか?

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