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IPO労務

よくいただくご質問と回答

IPOに向けた労務DDはどのように進めるべきでしょうか?

IPO労務DDについてはこちらをご覧ください。

労務DD報告書受領後にやるべきことは何でしょうか?

課題をリストアップして、重要度や改善リードタイムによって分類することが重要です。また、軽微な改善事項は、すぐに作業して完了させ、タスク自体を減らしていくことが重要です。(軽微な労使協定の締結、届出の漏れなど)

他方、下記のような重要度や難易度が高い事項については、整理して改善スケジュールを検討する必要があります。

【重要度による整理】

  • 未払賃金に発展する可能性がある論点
  • 労使紛争に発展する可能性がある論点
  • 労働基準監督署の是正勧告の対象となる論点

【改善リードタイムによる整理】

  • 労働者の個別合意が必要で最終解決に時間がかかる論点(未払精算など)
  • 不利益変更等について社内の合意形成が必要な論点(賃金制度や人事制度の変更など)
  • 運用の定着に時間を要する論点(勤怠管理システム、ログの乖離確認の周知徹底など)
  • 就業規則や労使協定等の精査が必要な論点(外部専門家のレビューが必要など)
労働時間制度選択で有利/不利はありますか?

法令上、労働時間制度は、大きく分けて4つの選択肢が用意されています。それぞれにメリット、デメリットがありますので、自社の事業形態に最適な労働時間制度の設計を検討する必要があります。ただし、過去の惰性で、不適切な制度が適用されている場合がありますので、その制度が本当に自社に適合しているのかについて客観的に検討する必要があります。また、必要な法定手続を行わずに、不適法な使い方をしている場合がありますので注意が必要です。

  • 原則的労働時間制(1日8時間、週40時間以内の定時勤務)
  • フレックスタイム制
  • 変形労働時間(1か月、1年など)
  • 裁量労働制(専門業務型、企画業務型)

特殊な制度として、次の2種類があります。一見、残業代が発生せずに便利に見えてしまうのですが、濫用すると紛争リスクが高い制度ですので、手堅い運用が望ましいと考えます。

  • 所定労働時間みなし、協定みなし
  • 管理監督者
勤怠システムの運用の注意点はありますか?

運用の参考となる資料は、次の2点です。

  • 1.厚生労働省の労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
    「自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。」の部分
  • 2.新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)記載要領(勤怠の管理方法及び未申告の時間外労働(いわゆるサービス残業)の発生防止)
    「勤怠の管理方法(労働時間の記録、管理職による承認、人事担当部署による管理の方法を含みます。)及び未申告の時間外労働の発生を防止するための取組みについて記載してください。」の部分

これらを踏まえて、勤怠システム運用を具体的に構築することになります。具体的なポイントは下記のとおりです。

  • 労働時間の端数切り捨て設定を入れないこと。(10分まるめ、15分まるめ等の処理を入れず、1分単位での記録を徹底する。)
  • 残業申請がない場合に労働時間として認めないような運用を入れないこと。当該設定を入れる場合は、厚生労働省ガイドラインに沿って、「必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をする」を具体的に実施すること。
  • 有価証券報告書(Ⅱの部)記載要領に準拠して、3段階での管理(労働時間の記録、管理職による承認、人事担当部署)にすること。

    ・従業員本人による適正な日々打刻(打刻漏れや不自然打刻は速やかに解消する)。
     ↓
    ・管理職による上記確認の徹底、必要な承認を行うこと。
     ↓
    ・人事担当部署が全社的なモニタリングを行い、不正打刻や過重労働に注意を払うこと。
PCログ確認は必須でしょうか?

PCログに限るものではありませんが、何かしらの「事業場内にいた時間の分かるデータ」「未申告の時間外労働の発生を防止するための取組み」を具体的に実施する必要があります。何も実施せずに、審査を突破することは困難であると考えられます。 こうした仕組みの導入は、システムコスト、運用コスト等、会社にとっては重い負担となり、上場準備の最大の山場になります。事業の状況にもよりますが、どういう措置が最も効率的に運用できるかについて知恵を出し合いながら工夫する必要があります。 現場の従業員にとっては、監視されるような印象になり、勤怠作業も繁雑になるため、敬遠される場合が多いのですが、粘り強く理解を求めて、適正打刻にご協力いただくよう社内浸透を進めていく必要があります。

36協定を遵守するための注意点は何でしょうか?

自社の協定書に書いてあることを理解して、几帳面に実施することが求められます。36協定のドラフト作成を社労士や事務担当者に丸投げして、自社の協定内容の意味を理解・把握していない会社が多い印象です。36協定に関する違反は、高い確率で是正勧告が出ます。是正勧告が出ることになれば、諸々の対応が求められ、上場審査対応の負担がさらに増大することになります。

  • 起算日と届出日(届出遅れは不適法)
  • 上限時間(特に、単月の特別上限と平均の特別上限を正しく理解すること)
  • 特別条項発動手続の具体的な実施方法(月次の手続実施イメージがついていない会社が多いです)
  • 健康福祉確保措置(何を記載しているか認識していない会社が多いです)
  • 署名している労働者代表は適正に選出された者か(不適切選出が目立ちます)
未払賃金を防止するための給与計算のポイントは何でしょうか?

未払賃金の発生要因を要素分解した上で、法的な不備がないように固める必要があります。

  • 算定基礎賃金(基準内賃金)で除外されているものはないか?(インセンティブ、その他手当、臨時手当等は要注意)
  • 分母数になる月平均所定労働時間は休日カレンダー(所定労働日カレンダー)と一致しているか?
  • 法定休日、60時間超などの割増率の設定漏れ、把握漏れはないか?
  • 管理監督者や裁量労働制の深夜割増は漏れていないか?
  • 固定残業手当の差額支給ロジックに漏れはないか?
  • 計上漏れの労働時間はないか?(切り捨てられた端数時間、残業申請されていない時間、未取得休憩、未消化振休、その他未申告労働時間)
  • 個別同意なく不利益変更をしていないか?(根拠や同意がない一方的賃金カット、一方的減給)
未払賃金が確認された場合の精算方法を教えてください。

法令上「正しい未払賃金の精算方法」といったものが示されていることはありません。原則論から言えば、精緻に過去検証をして、過去に遡って賃金台帳などを修正し、各種行政手続をやり直すということになるのでしょうが、実務的には、そうした方法を取ることは難しい場合が多く(過去を精緻に検証できる資料が存在しない等)、労使合意により一時金払いで解決を図る方法が主流と思われます。上場準備における未払賃金精算の流れは、概ね下記のとおりです。

  • 労務DDにより発生論点を特定する。
  • 法定帳簿の個別調査(個別シミュレーション)を実施する。対象期間は、精算起点から消滅時効期間(当面「3年」)遡ることが一般的です。
  • 必要に応じて従業員アンケート調査、個別ヒアリングを実施して②を補完する。
  • 対象従業員との個別面談を実施し、説明の上、同意の取得に向けた働きかけを行います。
  • 退職者については、書面や電話等で連絡を試み、説明の上、同意の取得に向けた働きかけを行います。
  • 同意書の取得
  • 支払実行(一時金支給で実施することが多いようです。)
名ばかり管理監督者と判断されないために固めておくべきポイントは何でしょうか?

次の観点から、管理監督者性の説得力が高まるように労務管理の整備を進めることがポイントになります。

  • 地位・権限
    (組織図、人事制度資料、職務権限規程等の具体的な資料に基づいて合理的な説明が可能になっている必要があります。レポートラインが不自然、部下なしの担当職といった場合は説明が難しくなります。)
  • 処遇
    (一般職に比べて明確に優遇されている必要があります。残業要因で容易に下位一般職に賃金が逆転されてしまうような賃金設計は管理職の処遇として不十分とみなされやすいです。)
  • 裁量性
    (遅刻早退に対するペナルティが行われていたり、実質的に作業的業務に拘束されているような「裁量権がほどんどないような勤務実態」である場合は、管理監督者であることを説明することが難しくなります。)
  • 労働条件への理解、納得感、説明の状況
    (管理監督者本人の認識が曖昧な場合は紛争リスクにつながります。)
  • 組織として人数のバランス
    (過剰な管理監督者は、権限重複や実質無権限な者を生み出してしまうため、管理監督者であることを説明することが難しくなります。)
審査機関(証券会社、Jアドバイザー)への対応で注意すべきポイントは何でしょうか?

コンプライアンスに関する視点の切り替えが重要であると考えています。

上場を前提としていない場合 → 最低限、労働基準監督署に指摘をされなければよい。(受け身姿勢)
上場を前提としている場合 → 社外関係者が多数存在するため、会社自ら積極的に、自社のコンプライアンス遵守状況の見える化を進めていく。(積極姿勢)

自社内でのみ納得している状況から、社外関係者が納得できるような、運用ルールや証跡管理を進めていくことが重要であると考えます。そうした取り組みが、審査上の疑義を減らし、上場審査の工数を減らしていくことにつながっていくと考えています。

また、審査機関との質疑応答においては、問われている論点の趣旨を正確に理解した上で、法令及び就業規則等の客観的根拠に基づいた回答を行い、それを裏付ける証跡を提出することが求められます。改善指摘事項については、具体的な改善対応を検討し、完了までのスケジュールを立てて着実に実施していく必要があります。

上場準備期間の労働基準監督署対応で注意すべき点はありますか?

現実問題として、上場準備期間や上場審査期間に労働基準監督署の臨検が入るケースは一定数あり、その想定はしておく必要はあります。基本的には、上場審査で求められる管理をしている場合は大きな指摘を受ける可能性は低いと考えますが、個別事象(特定の数名が過重労働をしている、疑義ある打刻がある、賃金計算が誤っている)の指摘は発生する可能性はあり、その場合は、速やかに改善対応を行い、社内で同種の事案が発生していないかを確認する必要があります。

「新規上場ガイドブック 上場審査に関するQ&A」より
Q:申請直前期に労働基準監督署から是正勧告を受けた事実があります。このような場合、審査上どのように判断されるのでしょうか。

A:上場審査では、法令等の順守のための有効な体制整備が行われているか、また実際に重大な法令違反が行われていないかといった観点から確認を行っています。労働基準監督署から是正勧告を受けたようなケースでは、当該時点において、労務管理に係る法令等の順守のための社内体制に何らかの不備な点があったと考えられますが、是正勧告の内容やその後の再発防止に向けた対応が全社的にどう講じられ、上場審査時点での体制整備が図られているかといった状況も踏まえ、判断を行うこととなります。よって、過去に一度是正勧告を受けたという事実が、直ちに上場審査上の判断に結びつくものではありません。
上場準備期間に発生する退職者への対応で注意すべき点はありますか?

ご承知のとおり、客観的に合理的な理由もなく、安易な解雇、雇止め、内定取消などは許容されるべくもありませんが、退職者が出ること自体が不適切ということではありません。(もちろん、離職率が高止まりしているという状況であれば人事政策や事業の継続性の観点から問題視されます。)

労務管理上は、個々の退職者に関する証跡管理が重要です。例えば、退職届、退職合意書、退職に至る面談記録といった資料を整理、保存して、退職の経緯がすぐに分かる状態にしておく、といった管理が求められます。

いわゆる会社都合退職については、会社都合=不適法ということではなく、その経緯や合意の状況が重要です。例えば、業務のミスマッチ、事業環境の変化によって、会社から退職協議を持ちかけて、任意に合意することができれば、それ自体は適切な合意退職になります。他方、問題になるのは、そうした退職の経緯が保存されていない、労使で認識に齟齬がある、会社の対応に不満をもったまま雇用関係が一方的に終了されている等の状況があると、不当解雇や法令違反等で、事後的に申告されるリスクを抱えることになります。

なお、メンタルヘルス不調、体調不良により退職に至った労働者については、事後的に労災申告が行われる場合があります。退職または休職前の期間における、上司や同僚とのコミュニケーションの状況(ハラスメント問題は存在していなかったか?)、労働時間の状況(過重労働やサービス残業の黙認等はなかったか?)について、内部調査を行い、会社自ら客観的な状況を把握しておくことが重要です。

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