よくいただくご質問と回答
- IPOに向けた労務DDはどのように進めるべきでしょうか?
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IPO労務DDについてはこちらをご覧ください。
労務デューデリジェンス Q&A
- 労務DD報告書受領後にやるべきことは何でしょうか?
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課題をリストアップして、重要度や改善リードタイムによって分類することが重要です。また、軽微な改善事項は、すぐに作業して完了させ、タスク自体を減らしていくことが重要です。(軽微な労使協定の締結、届出の漏れなど)
他方、下記のような重要度や難易度が高い事項については、整理して改善スケジュールを検討する必要があります。【重要度による整理】
- ①未払賃金に発展する可能性がある論点
- ②労使紛争に発展する可能性がある論点
- ③労働基準監督署の是正勧告の対象となる論点
【改善リードタイムによる整理】
- ①労働者の個別合意が必要で最終解決に時間がかかる論点(未払精算など)
- ②不利益変更等について社内の合意形成が必要な論点(賃金制度や人事制度の変更など)
- ③運用の定着に時間を要する論点(勤怠管理システム、ログの乖離確認の周知徹底など)
- ④就業規則や労使協定等の精査が必要な論点(外部専門家のレビューが必要など)
- 労働時間制度選択で有利/不利はありますか?
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法令上、労働時間制度は、大きく分けて4つの選択肢が用意されています。それぞれにメリット、デメリットがありますので、自社の事業形態に最適な労働時間制度の設計を検討する必要があります。ただし、過去の惰性で、不適切な制度が適用されている場合がありますので、その制度が本当に自社に適合しているのかについて客観的に検討する必要があります。また、必要な法定手続を行わずに、不適法な使い方をしている場合がありますので注意が必要です。
- ①原則的労働時間制(1日8時間、週40時間以内の定時勤務)
- ②フレックスタイム制
- ③変形労働時間(1か月、1年など)
- ④裁量労働制(専門業務型、企画業務型)
特殊な制度として、次の2種類があります。一見、残業代が発生せずに便利に見えてしまうのですが、濫用すると紛争リスクが高い制度ですので、手堅い運用が望ましいと考えます。
- ⑤所定労働時間みなし、協定みなし
- ⑥管理監督者
- 勤怠システムの運用の注意点はありますか?
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運用の参考となる資料は、次の2点です。
- 1.厚生労働省の労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
「自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。」の部分 - 2.新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)記載要領(勤怠の管理方法及び未申告の時間外労働(いわゆるサービス残業)の発生防止)
「勤怠の管理方法(労働時間の記録、管理職による承認、人事担当部署による管理の方法を含みます。)及び未申告の時間外労働の発生を防止するための取組みについて記載してください。」の部分
これらを踏まえて、勤怠システム運用を具体的に構築することになります。具体的なポイントは下記のとおりです。
- ①労働時間の端数切り捨て設定を入れないこと。(10分まるめ、15分まるめ等の処理を入れず、1分単位での記録を徹底する。)
- ②残業申請がない場合に労働時間として認めないような運用を入れないこと。当該設定を入れる場合は、厚生労働省ガイドラインに沿って、「必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をする」を具体的に実施すること。
- ③有価証券報告書(Ⅱの部)記載要領に準拠して、3段階での管理(労働時間の記録、管理職による承認、人事担当部署)にすること。
・従業員本人による適正な日々打刻(打刻漏れや不自然打刻は速やかに解消する)。
↓
・管理職による上記確認の徹底、必要な承認を行うこと。
↓
・人事担当部署が全社的なモニタリングを行い、不正打刻や過重労働に注意を払うこと。
- 1.厚生労働省の労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
- PCログ確認は必須でしょうか?
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PCログに限るものではありませんが、何かしらの「事業場内にいた時間の分かるデータ」「未申告の時間外労働の発生を防止するための取組み」を具体的に実施する必要があります。何も実施せずに、審査を突破することは困難であると考えられます。 こうした仕組みの導入は、システムコスト、運用コスト等、会社にとっては重い負担となり、上場準備の最大の山場になります。事業の状況にもよりますが、どういう措置が最も効率的に運用できるかについて知恵を出し合いながら工夫する必要があります。 現場の従業員にとっては、監視されるような印象になり、勤怠作業も繁雑になるため、敬遠される場合が多いのですが、粘り強く理解を求めて、適正打刻にご協力いただくよう社内浸透を進めていく必要があります。
- PCログとの乖離確認はどのように実施するのが一般的でしょうか?
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①勤怠システムと②PCログシステムの2系統の管理システムを導入した上で、それぞれから出力される時刻ログに対して、日ごとに乖離確認を行うことが基本対応になります。作業負担が大きいですので、いかに自動化・効率化できるかを検討することが実務的なポイントになります。(システムによっては、一つのシステムで①②が同時に把握可能なシステムもあります。) 各システムからどのようなログを出力可能かといった仕様にもよりますが、一般的手法としては、①②をCSVやExcelファイルで差分比較を行い、一定以上の乖離が認められる場合は、従業員に対する個別理由確認を求めることになります。その結果として、未申告残業が確認されれば、①を修正して給与の再計算を行う必要がありますし、妥当な理由と労働時間ではない旨の説明が確認できれば①の修正は不要と判断することになります。 具体的な作業(乖離確認のタイミング、時期、乖離許容幅など)については、法定基準がないため、労務DDの結果を踏まえて、自社の勤怠管理リスク状況に合わせて、検討と構築をしていくことになります。上場審査の主要論点になりますので、主幹事証券会社審査担当の意見も踏まえて実効性がある仕組み作りをすることが求められます。
- 入退室ログとの乖離確認はどのように実施するのが一般的でしょうか?
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前問と同様の考え方です。①勤怠システムと②入退室ログシステムの2系統の管理システムを導入した上で、それぞれから出力される時刻ログに対して、日ごとに乖離確認を行うことが基本対応になります。詳細は前問をご覧ください。 注意点としては、テレワーク等の「出社せずに勤務する従業員」が存在する場合、支店等で「入退室管理システムを設置できない環境で勤務する従業員」が存在する場合は、代替手段を講じる必要があります。実際の上場事例では、こういった従業員への対処として、部分的にPCログを併用したり、別途手段で確認を実施する等の対応で抜け漏れのない体制を構築して、上場審査を突破しています。
- 乖離確認をしないで済ませる方法はないのでしょうか?
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PC(入退室)ログをそのまま、勤怠打刻として認識するシステムも存在します。この場合、理論上、乖離は発生しないことになります。一つの方法論として検討の価値はありますので、自社の実情に合わせてご検討いただくことになります。 ただし、この方式を取る場合に注意すべき点があります。例えば、ある従業員が、休日や時間外に、私用でPCを起動させてしまったような場合、それが実態として労働であるか否かを問わず、勤怠システムには労働時間として記録されてしまいます。会社としては、こういった異常ログや不自然ログを発見した場合は、適宜、実態確認と修正を行う必要に迫られます。 意識の低い従業員が多数存在する場合、管理部門がこのような事後確認や事後修正に忙殺されることになり、かえって工数が増えることになります。上場審査上も、事後修正の頻発は疑義事象として認識されます。こうした管理体制を採用する前提として、個々の従業員が「不自然なログが残るような疑義行為はしない」「労働とプライベートは明確に区別する」といったコンプライアンス意識を持つことが必要になります。
- 乖離が多すぎて確認作業をやりきれない場合は一部省略も可能でしょうか?
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考え方として、手段と目的とが逆転していないでしょうか?貴社の目的はあくまでも「サービス残業が発生しにくい管理体制を構築すること」であって、乖離確認作業は手段に過ぎません。乖離確認作業を形式的にこなすこと自体が目的ではありません。 いかに会社側がシステムを導入して、乖離確認作業を実施しようとしても、従業員側がこうした措置の意味や重要性を理解せずに、だらしないログ管理と打刻管理を頻発させてしまえば、管理体制は安定しません。 上場準備に際しては、トップの明確な方針周知が不可欠と考えています。勤怠管理は経営課題と位置づけ、問題を曖昧にせず、法令遵守で精緻な勤怠管理を行うことが、経営上の優先事項である旨を周知徹底していただく必要があります。
- PCログも取れない、入退室ログも取れない場合は、どのような対応が考えられますか?
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「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によりますと、「特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合」と例示されていることから、上場事例においても、PCログや入退室ログを使うことは、主流の方法ではありますが、あくまでも例示された方法の一つであり、その他の方法を活用することも可能と考えています。ただし、「できるだけ客観的な方法」であることが求められますので、「上長が適宜呼びかけをしている」といった主観的で実効性が検証できない方法では不十分とされます。 上場事例の中で採用されていた方法としては、次のような事例があります。 ①社内で業務管理に使用されている「工数管理システム」「報酬請求システム」といった厳格な管理が行われていて恣意的な操作が困難な業務システムと勤怠記録の照合をする方法。 ②外勤者については、業務日報や業務チャットに残っている時刻記録との比較で不自然な乖離がないことを確認する方法。 ③工場作業員等については、施設入口付近にタイムカード機器を設置(防犯カメラ等も設置)して、物理的に「打刻前の作業」「打刻後の作業」のようなサービス残業が困難になる作業動線を設計する方法。 ④日々の勤怠申請として「労働時間の記録に相違ない。未申告の労働時間はない。」旨の確認機能を実装する方法。書面で確認書を提出させる方法。 といった方法が事例として確認されるところです。 ただし、この方法論を形式的に模倣すればOKということではなく、自社の勤務形態、施設状況、勤怠管理のリスク状況を踏まえて、一定の実効性が認められると評価される形に磨き込む必要があり、日々の運用の積み重ねが求められるところです。
- 36協定を遵守するための注意点は何でしょうか?
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自社の協定書に書いてあることを理解して、几帳面に実施することが求められます。36協定のドラフト作成を社労士や事務担当者に丸投げして、自社の協定内容の意味を理解・把握していない会社が多い印象です。36協定に関する違反は、高い確率で是正勧告が出ます。是正勧告が出ることになれば、諸々の対応が求められ、上場審査対応の負担がさらに増大することになります。
- ①起算日と届出日(届出遅れは不適法)
- ②上限時間(特に、単月の特別上限と平均の特別上限を正しく理解すること)
- ③特別条項発動手続の具体的な実施方法(月次の手続実施イメージがついていない会社が多いです)
- ④健康福祉確保措置(何を記載しているか認識していない会社が多いです)
- ⑤署名している労働者代表は適正に選出された者か(不適切選出が目立ちます)
- 未払賃金を防止するための給与計算のポイントは何でしょうか?
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未払賃金の発生要因を要素分解した上で、法的な不備がないように固める必要があります。
- ①算定基礎賃金(基準内賃金)で除外されているものはないか?(インセンティブ、その他手当、臨時手当等は要注意)
- ②分母数になる月平均所定労働時間は休日カレンダー(所定労働日カレンダー)と一致しているか?
- ③法定休日、60時間超などの割増率の設定漏れ、把握漏れはないか?
- ④管理監督者や裁量労働制の深夜割増は漏れていないか?
- ⑤固定残業手当の差額支給ロジックに漏れはないか?
- ⑥計上漏れの労働時間はないか?(切り捨てられた端数時間、残業申請されていない時間、未取得休憩、未消化振休、その他未申告労働時間)
- ⑦個別同意なく不利益変更をしていないか?(根拠や同意がない一方的賃金カット、一方的減給)
- 未払賃金が確認された場合の精算方法を教えてください。
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法令上「正しい未払賃金の精算方法」といったものが示されていることはありません。原則論から言えば、精緻に過去検証をして、過去に遡って賃金台帳などを修正し、各種行政手続をやり直すということになるのでしょうが、実務的には、そうした方法を取ることは難しい場合が多く(過去を精緻に検証できる資料が存在しない等)、労使合意により一時金払いで解決を図る方法が主流と思われます。上場準備における未払賃金精算の流れは、概ね下記のとおりです。
- ①労務DDにより発生論点を特定する。
- ②法定帳簿の個別調査(個別シミュレーション)を実施する。対象期間は、精算起点から消滅時効期間(当面「3年」)遡ることが一般的です。
- ③必要に応じて従業員アンケート調査、個別ヒアリングを実施して②を補完する。
- ④対象従業員との個別面談を実施し、説明の上、同意の取得に向けた働きかけを行います。
- ⑤退職者については、書面や電話等で連絡を試み、説明の上、同意の取得に向けた働きかけを行います。
- ⑥同意書の取得
- ⑦支払実行(一時金支給で実施することが多いようです。)
- 名ばかり管理監督者と判断されないために固めておくべきポイントは何でしょうか?
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次の観点から、管理監督者の制度設計が適正になるように労務管理の整備を進めることがポイントになります。
- ①地位・権限
(組織図、人事制度資料、職務権限規程等の具体的な資料に基づいて合理的な説明が可能になっている必要があります。レポートラインが不自然、部下なしの担当職といった場合は説明が難しくなります。) - ②処遇
(一般職に比べて明確に優遇されている必要があります。残業要因で容易に下位一般職に賃金が逆転されてしまうような賃金設計は管理職の処遇として不十分とみなされやすいです。) - ③裁量性
(遅刻早退に対するペナルティが行われていたり、実質的に作業的業務に拘束されているような「裁量権がほどんどないような勤務実態」である場合は、管理監督者であることを説明することが難しくなります。) - ④労働条件への理解、納得感、説明の状況
(管理監督者本人の認識が曖昧な場合は紛争リスクにつながります。) - ⑤組織として人数のバランス
(過剰な管理監督者は、権限重複や実質無権限な者を生み出してしまうため、管理監督者であることを説明することが難しくなります。)
- ①地位・権限
- 審査機関(証券会社、Jアドバイザー)への対応で注意すべきポイントは何でしょうか?
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コンプライアンスに関する視点の切り替えが重要であると考えています。
上場を前提としていない場合 → 最低限、労働基準監督署に指摘をされなければよい。(受け身姿勢)
上場を前提としている場合 → 社外関係者が多数存在するため、会社自ら積極的に、自社のコンプライアンス遵守状況の見える化を進めていく。(積極姿勢)
自社内でのみ納得している状況から、社外関係者が納得できるような、運用ルールや証跡管理を進めていくことが重要であると考えます。そうした取り組みが、審査上の疑義を減らし、上場審査の工数を減らしていくことにつながっていくと考えています。
また、審査機関との質疑応答においては、問われている論点の趣旨を正確に理解した上で、法令及び就業規則等の客観的根拠に基づいた回答を行い、それを裏付ける証跡を提出することが求められます。改善指摘事項については、具体的な改善対応を検討し、完了までのスケジュールを立てて着実に実施していく必要があります。
- 上場準備期間の労働基準監督署対応で注意すべき点はありますか?
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現実問題として、上場準備期間や上場審査期間に労働基準監督署の臨検が入るケースは一定数あり、その想定はしておく必要はあります。基本的には、上場審査で求められる管理をしている場合は大きな指摘を受ける可能性は低いと考えますが、個別事象(特定の数名が過重労働をしている、疑義ある打刻がある、賃金計算が誤っている)の指摘は発生する可能性はあり、その場合は、速やかに改善対応を行い、社内で同種の事案が発生していないかを確認する必要があります。
「新規上場ガイドブック 上場審査に関するQ&A」より
Q:申請直前期に労働基準監督署から是正勧告を受けた事実があります。このような場合、審査上どのように判断されるのでしょうか。
A:上場審査では、法令等の順守のための有効な体制整備が行われているか、また実際に重大な法令違反が行われていないかといった観点から確認を行っています。労働基準監督署から是正勧告を受けたようなケースでは、当該時点において、労務管理に係る法令等の順守のための社内体制に何らかの不備な点があったと考えられますが、是正勧告の内容やその後の再発防止に向けた対応が全社的にどう講じられ、上場審査時点での体制整備が図られているかといった状況も踏まえ、判断を行うこととなります。よって、過去に一度是正勧告を受けたという事実が、直ちに上場審査上の判断に結びつくものではありません。
- 上場準備期間に発生する退職者への対応で注意すべき点はありますか?
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ご承知のとおり、客観的に合理的な理由もなく、安易な解雇、雇止め、内定取消などは許容されるべくもありませんが、退職者が出ること自体が不適切ということではありません。(もちろん、離職率が高止まりしているという状況であれば人事政策や事業の継続性の観点から問題視されます。)
労務管理上は、個々の退職者に関する証跡管理が重要です。例えば、退職届、退職合意書、退職に至る面談記録といった資料を整理、保存して、退職の経緯がすぐに分かる状態にしておく、といった管理が求められます。
いわゆる会社都合退職については、会社都合=不適法ということではなく、その経緯や合意の状況が重要です。例えば、業務のミスマッチ、事業環境の変化によって、会社から退職協議を持ちかけて、任意に合意することができれば、それ自体は適切な合意退職になります。他方、問題になるのは、そうした退職の経緯が保存されていない、労使で認識に齟齬がある、会社の対応に不満をもったまま雇用関係が一方的に終了されている等の状況があると、不当解雇や法令違反等で、事後的に申告されるリスクを抱えることになります。
なお、メンタルヘルス不調、体調不良により退職に至った労働者については、事後的に労災申告が行われる場合があります。退職または休職前の期間における、上司や同僚とのコミュニケーションの状況(ハラスメント問題は存在していなかったか?)、労働時間の状況(過重労働やサービス残業の黙認等はなかったか?)について、内部調査を行い、会社自ら客観的な状況を把握しておくことが重要です。
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