労務問題をクローズさせる
労務問題をクローズさせる
よくいただくご質問と回答
- 買収先の労務DDのポイントは何でしょうか?
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労務DDの内容自体は、IPOもM&Aも同じ(労働法令は共通)ですが、目的が異なるので、注力するポイントが異なります。
IPOにおいては、自社の労務コンプライアンスを段階的に整備する前提で労務DDを実施しますが、M&Aにおいては、他社を自社(自グループ)に取り込むための障害を整理する目的で労務DDを実施します。
M&Aのディールにおいて、労務的な注意が必要な局面は次の3つです。- ①労務DD
条件(売買価格)に影響する簿外債務(未払賃金等)や重大な法令違反リスクの把握 - ②労働承継手続
労働契約承継法や事業譲渡等指針による法定手続を検討するための労働条件及び労使関係の把握 - ③PMIプロセス
就業規則や労働条件の統合を円滑に進めるための労務管理面の把握
- ①労務DD
- 簿外債務にはどのようなものがありますか?
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主に次のようなものが考えられます。
- ①割増賃金の未払い
(勤怠管理が行われていない、時間や金額の切り捨て、サービス残業、未消化振休の蓄積等) - ②無効な不利益変更
(同意も得ずに一方的に賃金カットをしているようなケース) - ③社会保険の未加入
- ④労働保険料の未納、過小申告
- ⑤障害者雇用納付金その他納付金の未納
- ①割増賃金の未払い
- 重大な法令違反にはどのようなものがありますか?
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重大な法令違反とは、M&A後の統合プロセスに大きな障害になるような法令違反であり、労働基準監督署による是正勧告や書類送検、従業員からの訴訟になるような事案です。一例として次のようなものが考えられます。
- ①実質的に勤怠管理が行われていない、実態に基づかない自己申告制
(手書きやエクセル手入力)、サービス残業の黙認等、勤怠管理が大幅に形骸化しているような管理状況 - ②36協定に違反するような過重労働
(健康被害が生じているケースは重大です) - ③重要な労使協定
(36協定、1年単位の変形労働時間制の労使協定、裁量労働制の労使協定等)の届出漏れ - ④解雇、不当な雇止め、内定取消等
- ⑤名ばかり管理職
(役職者に一律に割増賃金を支払っていないようなケースは集団で訴訟されるリスクがあり危険です。) - ⑥重篤労災(死亡や障害が発生する事案)、労災隠し
- ⑦ハラスメント問題
- ⑧社会保険や労働保険に関する未加入、未納、過小申告(遡及で徴収される)
- ①実質的に勤怠管理が行われていない、実態に基づかない自己申告制
- 労働承継の手続について教えてください。
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スキームが会社分割である場合は、労働契約承継法の対象となり、次のような手続が必要になります。(対象労働者の個別同意を得た場合でも省略できません。)
- ①労働者の理解と協力を得る努力
(労働契約承継法第7条) - ②労働者との協議
(商法等改正法附則第5条) - ③労働者・労働組合への通知
(労働契約承継法第2条) - ④該当労働者による異議の申出
(労働契約承継法第4、5条) - ⑤分割の効力発生
なお、スキームが、事業譲渡又は合併である場合は、「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」に基づき、労働契約承継法に類似した労働者との協議手続が必要ですので注意が必要です。
厚生労働省 企業組織の再編(会社分割等)に伴う労使関係(労働契約の承継等)について - ①労働者の理解と協力を得る努力
- 労務におけるPMIプロセスでは、何が行われるのですか?
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M&Aの効果を最大限に発揮するためには、労務管理面の統合が必要になります。一般に、買収する側とされる側では、就業規則、管理システム、賃金制度、福利厚生など全てが異なります。これを調整しながら統合を進め、一体的な人材活用ができるような体制を構築していくことが必要になります。その際に、障害になるのは「不利益変更の問題」です。
不利益変更については、法律が分かりにくいため、要素分解をしながら丁寧に論点をクリアしていく必要があります。
原則 「労使の合意により変更することができる」「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」(労働契約法第8条、第9条)
例外 「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」(労働契約法第10条)
いわゆる4要件を整えながら、丁寧に説明会等を実施して理解を求める作業が必要になります。【4要件】
- ①労働者の受ける不利益の程度
- ②労働条件の変更の必要性
- ③変更後の就業規則の内容の相当性
- ④労働者側との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情
特に重要なのは①であり、どうしても不利益変更が避けられない場合は、一定の代償措置や移行措置等を検討することで従業員への影響をできるだけ抑えていく必要があります。
- M&Aで転籍が発生した際に、社会保険や労働保険の資格はどうなりますか?
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ケースバイケースです。原則論としては、転籍元で資格喪失をして、転籍先で資格取得をすることになりますが、スキームによっては、現状の資格をそのまま転籍先に引き継ぎが可能なケースもあります。その際には、行政機関(ハローワーク、年金事務所、健康保険組合等)との事前協議が必要な場合もありますので、社会保険及び労働保険の専門家としての社会保険労務士の助言を得ることが有用と思われます。
- 売り手側にとっては、M&Aを目的とした労務DDを実施する意味はありますか?
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企業価値の向上という観点から大いに意味があると考えています。確かに、M&Aデューデリジェンスは、買い手側がリスクヘッジとして行うことが一般的で、売り手側にとっては面倒な手続に見えてしまうかもしれません。ただ、発想を転換して、売り手が取引に臨む前に、自主的に労務DDを実施するケースをご想像いただければそのメリットが見えてくるのではないかと思います。M&A案件として持ち込む前に、自主的に調査、改善を施すことで、「取引対象としての自社の価値」を大きく変えることができます。M&Aのディールに入った際に、プレーヤーからの評価は大きく変わるでしょうし、そうなれば条件(売買価格)を引き上げるということは十分に可能と思われます。 労働法令には、消滅時効という概念がありますから、簿外債務については、事前に手を打つことができれば、解消できるものが相当数ありますし、法令違反についても、最低限の対応をしておくだけで、法的リスクを大幅に引き下げることができる部分もあります。100 or 0思考ではなく、コストパフォーマンスの観点から、企業価値を向上させるために労務管理に一定のコストを投じておくという選択は、売り手側としても十分合理的な判断であると考えます。
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